本書は、中央銀行の歴史からはじまり、中央銀行の役割、日本銀行の実務、そして日本の金融政策の変遷を戦後から現代までを振り返り、クルーグマンのデフレ脱却案*1を解説から、現代中央銀行が行っている非伝統的金融政策を説明し、最後に黒田総裁が4月4日に導入した「量的・質的緩和」を説明しています。
最近、奇をてらった新書が多い中、手堅くそして平易にまとめられており「新書って本来こういう役割を担ってたはずだったんだよなあ」という思いを強くする本です。ニュースなどで最近の日本の金融政策に興味を持った人にはお勧めできる本だと思います。
バランスよく書かれている本ですが、ところどころ翁先生の意見(本音?)が顔をのぞかせている部分が興味深い。Twitterでも話題になっていましたが、ゼロ金利解除にからむ故速水元総裁批判は思わず笑ってしまいました。
↑速水優元総裁
ゼロ金利解除につながっていった、と書いたが、この判断は必ずしも日本銀行内のコンセンサスとは言えなかった。ゼロ金利解除に特に強くこだわっていたのは(略)速水優である。(中略)実際、インフレファイターがタイム・カプセルに入って送り込まれてきたようなオールド・セントラル・バンカーであり、そもそもゼロ金利政策に強い嫌悪感を持っていた。
そして翁先生は、速水元総裁がたびたび政府と衝突することや早すぎるゼロ金利解除などの「暴走」によって、デフレ・ファイターとしての日本銀行の信認が損なわれてしまったと、速水元総裁を批判します。いやあ、ここまでバッサリ切り捨てるとはなあ(笑)。ちょっと速水元総裁に同情してしまった(笑)。
あとは、これもTwitterで指摘していた人がいるけど、吉川洋先生の「需要創出型イノベーション」への共感が強すぎるのも……。吉川洋先生の『デフレーション』は読んでいないのでなんともいえないけど。
というわけで、初学者の人も多少なりとも経済学をかじった人も楽しめる(?)本だと思います。
追記(2013年7月16日 18時29分)
読み返してみたが、ちょっと誉めすぎたかな?リフレ政策支持派としては「んー?」という記述があるのも事実。例えば、「量的緩和は経済そのものへの効果なし。量を増やすことで「期待」への働きかけを狙うのは分かるけど、「期待」への波及経路(パス)が不明だし、(リフレ派が言うほど)うまくいくかどうかは分からん」、「ヘリコプターマネーと言われるけど、日銀が直接経済主体へマネーを供給することはできん。それは政府の役割(財政政策)。こちらばかり責められても……」、等々
とはいえ、金融政策に効果なしなんてことは書いてないので甘い採点としました。翁先生のいうリスクもたしかにあるだろうしね*2。