翁邦雄著『日本銀行』 プロローグ 「リフレ派」登場の背景より
アヌーンなど伝統的な中央銀行家――先に述べたように、アヌーンフランス銀行の上級副総裁出身である――の悲痛な叫びと裏腹に、シンプルで過激な考えは中央銀行家の慎重な議論に比べ、世の中に広がりやすい。
過激な考え方が広がりやすいのは経済問題にかぎったことではない。丸谷才一は『思考のレッスン』の中で、歴史的仮名遣いを巡る巡る福田恆存と三島由紀夫の論争に関連して、「あらゆる運動において、より過激な論調を出したほうが強いんですね。優勢になる。過激な論、青年将校的な言辞に対しては、つい「その通りだ」と言いたくなるものなんです。左翼は小児病に対して弱いし、右翼は直接行動に対して弱い。そのときにちょっと待った歯止めをかけるのは大変な勇気を要することなんですね。乱暴なことを言うほうがカッコいいからな」と述べている。
仮名遣い論争はともかく、経済論争もシンプルで過激なほうが有利であることに変わりはない。伝統的な中央銀行家の議論はつねに慎重に断定を避ける分、「カッコ悪く」魅力に乏しい。閉塞感が強まるほど、不満は強まる。欧州でも米国でも。そして日本でも。そうした中で、日本では2012年末の安倍政権の登場に至る過程で、安倍総理は「大胆な金融緩和」を掲げ、2013年3月の日本銀行の正副総裁の交代に当たってはアヌーンの言う「国際金融の有識者」に当たる主張をもつ人たちが日本銀行の執行部の中核を占めることになった。
日本ではこれらの人たちはリフレ派と呼ばれ、新体制発足直後の4月4日の政策決定会合でさっそく「量的・質的金融緩和」と呼ばれる金融緩和策を採用した。
翁先生が「リフレ派」をどういう目で見てるかが分かる箇所だと思います。プロローグからこれだと内容に期待できるなあ(笑)*1