くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

人間消失の魅力(赤木かんこ編「人間消失ミステリー」感想)

収録作品
B13号船室      ディクスン・カー
十三号独房問題    ジャック・フットレル
雷電の惑星     寺沢武一

 古来より、いつの間にか人が消えてしまうという事件はいろんな場所で起こっていました。昔の人は、それを「神隠し」といって恐れていました。時は流れて現代においても人がいなくなるという事件は起こっています。現実においても物語の中でも。

 本書は、そういった「人間消失」というテーマで編まれたアンソロジーです。

 こういった不思議な現象はいたくミステリ好き(作家)の心を刺激するらしく、多くの作家がたくさんの作品を書いています*1

 本書で収録されている中で必読と言えるものは、ジャック・フットレルの「十三号独房問題」でしょう。「論理で解けぬものはない」と宣言する「思考機械」ことオーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン博士が、友人と「監獄脱出」の賭をしてしまう。幾重にも守れた監獄からヴァン・ドゥーゼン博士は脱出できるのか?というあらすじ。血なまぐさい話でもないし、万人にお勧めできます。私は、看守との心理戦の部分が大好きで何回も読んでいるぐらいのお気に入り。

 あと、「十三号独房問題」は、その後のミステリ作家の作品に(モチーフやトリック等が)たびたび取り上げられている作品なので、ここで読んでおくと、他のミステリ作品を読んだときにニヤリとできます(笑)*2

 順番が前後しますが、ディクスン・カーの「B13号船室」も、「十三号独房問題」を意識しているのかもね。こっちは、単に人が消えてしまうだけでなく、その人が入っていたはずの部屋までも消えてしまったというお話。トリックは単純ながら、客船という場所と状況を効果的に使っていると言えるでしょう。それとこの作品はラジオドラマの脚本なので、文章は脚本形式で書かれています。よって、カー作品にありがちな読みにくさはありません。

 最後は漫画枠。コブラは初読みでしたが、なかなか面白かったです*3
 
 編者である赤木かんこ氏が述べていますが、字体も今風で大変読みやすいです。字体でここまで読みやすさが変わるとは。


 「人間消失」ものとしては、他に何があるかなぁ?私が好きなのは、チェスタートンの「見えない男」や「古書の呪い」*4

 そうそう、部屋に入っている人ごと消してしまう作品としては、加納朋子著「掌の中の小鳥」に収録されている「できない相談」が傑作だ。これはね、犯人(?)の手際がいいのよ。オススメ。

 しかし、ミステリ作家というのはいろんなモノを消し去るもんだ。感心してしまう(笑)

*1:最初のミステリと言われるポーの「モルグ街の殺人」だって、加害者が犯行現場から忽然と姿を消しているので、「人間消失」ものと言えるでしょう

*2:この十三独房問題をモチーフにした作品と言えば、D・ホックの「十六号独房問題」(「サムホーソンの医師の事件簿1」に収録)や米澤穂信の「あきましておめでとう」(「遠回りする雛」収録)がある。

*3:最後のコマで大爆笑したのは私だけか(笑)

*4:前者は「ブラウン神父の童心」、後者は「ブラウン神父の醜聞」に収録