以前のエントリーで予告したように、経済セミナー(2013年10・11月号)の巻頭対談より、吉川洋先生がアベノミクス(というかリフレ政策)に言及した部分を取り上げます。
要点を抜き出すと、
- 物価の動向は原油、素材、原材料などの影響を大きく受ける。いまのところの物価上昇は(金融緩和ではなく)為替チャンネルを通した影響が大きい。
- リフレ派のテーゼ(命題)として「インフレやデフレは貨幣的現象である。したがって、デフレはマネーサプライを増やせば(期待インフレ率が上昇して)止まる」というのがある。しかし、マネーサプライを増やせば期待インフレ率が高まるかどうかは疑わしい。
- 例えば直近の家計調査をみると、消費が伸びているのは50〜64歳の世帯である。若い世帯(49歳以下の世帯)は全然消費を増やしていない。「期待インフレ率が高まればマネーを持っている世帯が消費を増やす」とリフレ派は言うが、そうなっていないではないか。
まとめるとこんなもんかな?対談では石先生の鋭いツッコみに吉川先生が答えるという形になっており、なかなか楽しく読めます(笑)。
さて、いろいろツッコみどころがありますね。僭越ながらいくつか指摘してみましょう。まず「昨今の物価上昇は為替チャンネルを通じたものだ」という意見。これはその通りだと思います。とはいえ、その影響を除いたコアコアCPIもジワリと上昇してきているという点は指摘できると思います。
リフレ派のテーゼ(命題)について。うーん、リフレ派のコアって「インフレターゲット政策などを通じたインフレ期待の管理」じゃなかったっけ?これは「マネーサプライを増やせば期待インフレ率は上がる」とは違うと思うけど……
若い世帯(49歳以下の世帯)が消費を増やしていない点について。そりゃ、若い世帯はお金持ってないもん(笑)。理由はふたつほどあると思う。
- 非正規雇用の増加などによる所得減
- 子育てや住宅ローンを支払っている世帯が多い
逆に50-64歳世帯は子育てや住宅ローンの支払いも終わってるから余裕はあると思う(+退職金もあるだろうし)。もう少し詳しいデータは総務省が5年ごとに行っている全国消費実態調査 家計資産に関する結果の3番目の項目をごらんください。
むしろ私はこのグラフを見て「リフレ政策はうまくいってるなあ」と思いました。このあたりは解釈の違いなんでしょうね。
資産効果についてだけど、円安や株価の上昇が起こったのは衆議院が解散した昨年11月16日ぐらいからです。「質的・量的緩和」は今年の4月から。マネーはたいして増えてないのに、なぜそれが起こったか?これこそ「期待」によるものではないでしょうか。
景気動向指数をみると、たしかに11月あたりで底を打ってます。だから、今回の景気回復は景気循環に過ぎないという意見なのでしょうけど。うーん
日本はここ数十年の間に名目賃金が下がりやすい国になってしまったについて。たしかに、その通りだと思います。これをどうすればいいか。一般論になりますがマクロ経済の改善&労働環境の改善を通じて行うしかないと思います。
全部の点にツッコんでしまった(笑)。金融政策の効果にはラグがあるので、あと1年か2年ぐらいたたないとはっきりしたことは分からないでしょうね。
とりあえず、いまは黒田総裁を信じるしかない。その評価は後生の経済学者待ちということで。