くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

財政規律がゆるまないために国債中心の運用を見直す?

今回のゆうちょ限度額引き上げで一番理解できないのが次の部分
財投復活か…郵政資金・運用改革案(読売オンライン)

国債に集中する日本郵政グループの資金運用を見直し、海外の社会基盤整備や国内の公共施設建設などに投融資して収益拡大を図ることが柱だ。しかし、豊富な郵政マネーを政府系金融機関を通じて公共事業などに使う非効率な資金の流れになりかねず、かつての財政投融資を連想させる内容となっている。

 改革案は、原口総務相が同日開かれた郵政改革に関する閣僚懇談会に提示した。ゆうちょ銀、かんぽ生命の限度額引き上げで資金がさらに肥大化するため、国債に依存しない運用の方向性を打ち出すことが狙いだ。具体的には、〈1〉鉄道、道路、水道など海外のインフラ整備事業への投資や進出する日本企業への融資〈2〉橋や学校、病院など国内公共施設の整備・再開発への投融資〈3〉外国債券の購入〈4〉個人・住宅ローンなど個人向け融資――などを提案した。

財政規律云々はこのニュースでは触れていませんが、テレビのニュースでいっていたのでタイトルに反映させました。

さて、このニュースを聞いて思い出した話がある。皆さんおなじみ「クルーグマン教授の経済入門」に載っているS&L(セービングス&ローン)の話だ。

しょっぱなから、預金を保証したりするのはリスクと汚職の温床だってのは認識されてた。(中略)固定金利で好きなだけ借りられるってのは、ばくちをうってくださいと言ってるに等しいでしょ。(中略)これはもう見え見えの問題で、81年まではその対策も見え見えだったわけだ。どんな投資をして良いかはガチガチに規制されてて、個々のS&Lには定期的に監査が入った。(中略)特権(預金保証)とひきかえに、責任(低リスク投資)を負わされたってこと。

70年代まではこれでうまくいっていたらしい。しかし、インフレに伴う市場金利の上昇でS&Lは苦境に陥る。そこで政府が打ち出したのは、「投資の規制緩和

 もちろん、当時はこんな言い方はされなかった。81年に発表された法制の変更の表向きの目的は、こうだった。「S&Lに認められた投資の種類を抜本的に規制緩和することによって、資産のさらなる生産的で有効な活用を可能にする」*―自由市場の原則とやらに基づいて、こんな変更も正当化されちゃったのね。
 でも、本当に自由市場に移行するなら、投資の規制緩和したげるかわりに、預金保証という特権もなくすべきでしょ。かわりに貯蓄機関がもらったのは、責任なしの自由ってヤツだった。

 で、そういう責任なしの特権から生じる「ビジネスチャンス」を最大限に活用できるような気質の持ち主ってのは、まあ当たり前なんだけれど、平均以上の割合でごろつきや犯罪者だったりしたわけだ。でも、貯蓄産業におけるホワイトカラー犯罪という疫病は、政府が作り出した環境の結果であって、単独のできごとなんかじゃあないわけ。

 長々引用しましたが、今回のゆうちょの件で何が言いたいかというと、「政府がばくちを煽るようなことをやってどうする!」ということです。自国通貨建て国債なんて投資の中では一番リスクが少ない(したがってリターンも微々たるもんだけど)投資のはず。それを見直すなんてねえ。しかも理由が「財政規律がゆるむ」というのも変だ。翻訳者の山形浩生氏も脚注(引用文の中でアスタリスクがついている部分)でこう書いてる。

いかにもいまの日本にありそーだよなー。郵貯財政投融資について、まったく同じ論調で、まったく同じ議論が、これとまったく同じ台詞で行われようとしているけど、大丈夫だろうか。

2003年に書かれたと思えない文章(笑)。7年たっても状況はいっこうに変わっていないようですorz



以下余談
しかし「クルーグマン教授の経済入門」のパフォーマンスは異常。いまでも、こういう風に役に立つ本はなかなかないね。