くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

2013年9月20 きさらぎ会における黒田総裁の講演の要約

 本エントリーは2013年9月20にきさらぎ会で行われた黒田総裁の講演の要約です。原文は日銀で公開されています。

デフレからの脱却と「量的・質的金融緩和」(日本銀行)

 今回の講演のポイントは、物価版フィリップス曲線を用いて日本のデフレおよびその脱出方法を述べているところでしょうか。いままで日銀が行ってきた金融政策との違いを手際よく説明していると思います。





1.はじめに
 本日の講演では、まず内外の経済・物価情勢について説明して、その後、日本の15年間にわたるデフレの背景やその克服方法を少し掘り下げて説明する。

2.最近の経済・物価情勢
  「量的・質的金融緩和」のもとで、日本経済は日銀が掲げた2%の「物価安定の目標」の実現に向けて着実にたどっている。

 経済・物価情勢
 景気は緩やかに回復中。企業部門、家計部門ともに所得から支出という前向きの景気循環カニズムがだんだん働いてきている。

 今回の景気回復の特徴
 今までの日本の景気回復局面は、(円安)→輸出増→企業の生産増&企業の設備投資増という動きをたどっていたが、今回の景気回復局面は、個人消費公共投資が主導してる(内需主導)。

 所得から支出という前向きな景気循環が働いてきているので、内需は堅調に推移すると見込んでる。

 出遅れている輸出&生産&企業の設備投資も次第に上向くと見込んでいる。

 輸出増のカギは「海外の経済動向」

 海外経済の現状と先行き
 どこの国や地域もリスクを抱えているが、米欧経済が改善方向にあるので世界経済も堅調に推移していく見込んでいる。

 世界経済の堅調さによって、日本の製造業の生産や設備投資は持ち直すと考えている。

3.15年近く続いたデフレとその対応策
 今回の講演では「海外と比較した場合の日本の抱えている問題」と「日本のここ15年間の経済と物価の推移」というふたつの視点から日本のデフレを分析する。

 (1)海外の課題と日本の課題
 リーマンショック以降、欧米諸国の景気回復は緩やかで、依然として生産の低迷や高失業率が続いている(マイナスの需給ギャップが存在)

 一方、物価は各中央銀行が掲げている物価目標近辺で安定的に推移している(インフレ期待が物価目標にアンカーされている状態)。

 こういった状況で、海外の各中央銀行は「景気への刺激」と「物価の安定」の達成のために難しい舵取りを迫られている。

 日本の場合はインフレ予想がかなり低いところに固定されている(0%近辺にアンカーされてる)。

 このアンカーを日銀が掲げる物価安定目標である2%に引き上げなければならない。
 
(2)1990年代後半以降の変化
 1990年代後半以降の経済・物価情勢とその影響
 日本では1990年以降、不良債権問題やリーマン・ショックなど経済に対してさまざまな負の圧力がかかった。

 また物価面でも安価な輸入品の流入、企業間の競争激化、非正規雇用の増加による賃金水準の低下などの負の圧力がかかった。

 それに対し、日銀はこれまでゼロ金利政策量的緩和政策、包括的緩和政策などの金融政策を行ってきたが、一時を除けば物価の下落に歯止めをかけることができなかった。

 逆にデフレが長期化していった結果、人々の間に「デフレ期待」が定着してしまい、デフレからの脱却がさらに難しくなってしまった。

 フィリップス曲線の変化
 ここではやや専門的になるが、上記の状況を「フィリップス曲線」という概念を用いて説明する(図表8)。

 ここでいう「フィリップス曲線」は物価と需給ギャップの関係を示したもの。景気がよくなり需給ギャップが引き締まれば物価は上がるという関係を表している。

 図からフィリップス曲線の下方シフトが確認できる。

 現在のフィリップス曲線を(B)線とみなした場合、2%の物価安定目標を達成するためには+6%ほどの需給ギャップが必要ということになる。これはバブル期の需給ギャップ水準に匹敵する。これは私たちが目指している姿ではない。

 なぜなら、景気がとてもいい状態(つまり需給ギャップが大幅なプラスの時)で2%を達成しても、景気が悪くなったら(つまり需給ギャップが縮小したら)物価が下がってしまう。これは安定的な物価目標とはいえない。

 安定的な2%物価上昇率を達成するためには、景気が普通の時(つまり需給ギャップが0の時)に2%になるような経済・物価の関係を作る必要がある。

 以上を踏まえると、従来の「景気をよくして物価上昇率を上げる(つまり需給ギャップをプラスに持って行って物価上昇率を上げる)」というアプローチだけでは持続的な物価安定は達成できないことが分かる。

 持続的な物価安定を達成するためにはフィリップス曲線を上方シフトさせるような政策が必要。

 (3)課題の克服に向けて
 ここでは人々の「デフレ期待」を払拭し、デフレを抜け出す方法を説明する。

 いまだに日本にはマイナスの需給ギャップが残っているので、従来の金融緩和を継続し需給ギャップを引き締めることは必要。これに伴い物価も上昇するはずなので、人々の予想インフレ率も高まることが期待できる。

 ただ、人々の間で「デフレ期待」が定着しているので、これだけではデフレ脱却は難しい。

 よって、日本銀行は人々の期待に直接働きかけて、人々の予想インフレ率を引き上げ、フィリップス曲線の上方シフトを狙う政策が必要だと判断した

 上記の狙いを達成するために導入したのが「量的・質的金融緩和」政策である(図表9)。

 強く明確なコミットメントと質・量ともに次元の違う金融政策
 量的・質的金融緩和」政策には人々の期待をできるだけ早く転換するために、ふたつの要素を盛り込んでいる。

 ひとつは、企業や家計に定着した「デフレ期待」を払拭するために、必ずデフレから脱却するという日本銀行の意志を、強く明確な形でコミットメントしたこと。

 ふたつめは、いくら強いコミットメントを表明しても、それを裏打ちするものがなければ、人々に信じてもらうことはできない。よって、金融市場の調節目標を、これまでの「金利」から、マネタリーベースという「量」に変更し、これを「2年間で2倍」にするという大胆な施策を講じた。

 金融緩和の継続期間
 上記に加え、先行きの政策スタンスについても、日本銀行は、「2%を安定的に持続するために必要な時点まで継続する」と明確に示した。

 日銀のコミットメントは「2%の物価上昇率をできるだけ早期に達成する」ことだが、これは一時的に2%を達成すれば良いことではない。「2%を安定的に持続する」ことが重要。

 これを実現するために必要な時点まで「量的・質的金融緩和」を続ける。

 このような政策を行うためには予想インフレ率の正確な把握が必要。

 ただし、予想インフレ率は直接観察できない。そこで日本銀行は、企業や家計のアンケート調査のほか、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)などを分析し、予想インフレ率の正確な把握に努めてきた。今後も幅広いデータを点検し、精度を上げていきたい。

4.おわりに
 これまでのところたしかな手応えを感じている。

 デフレからの脱却をできるだけ早く実現するために、今後も適切に金融政策を運営していく。