くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

この状況で言う必要はないよなあ

浜田教授:日銀の長期国債買い入れ倍増は「可能」−追加緩和5月にも(ブルームバーグ)

 一方、日銀が2%の物価上昇を目指していることについては「物価をどうして2%にしなければいけないのか、全く分からない。1.5%だっていい。2%までなら何の問題もないが、4、5%になれば人々への大衆課税になる」と指摘。「雇用と生産、GDPが回復すればいいわけなので、2%にならないからアベノミクスは目的を達成できなかったと言われる筋合いはない」と語った。

 さらに、「人の気持ちは簡単に変わる。これから心配しなければならないのは、デフレを脱却できるかどうかではなく、どうしたら国民経済にインフレ体質が舞い戻ってこないようにできるかだ」と言明。「毒を持って毒を制するということで、インフレ的にしていろいろな良いこともあるが、行き過ぎないように止めることは重要だ。日銀はインフレファイターであることを忘れてもらっては困る」と述べた。


 浜田先生はGDPギャップの安定を最重要視しているのだと思います。マクロ経済の安定のためには政府や中央銀行は「物価」に注目するよりも「名目GDP」に注目して政策運営をした方がいいという意見もありますし、どの経済指標(変数)に注目して政策を行うべきかは議論のあるところです。ただ、物価は上昇しているとはいえデフレ脱却が確実ではない状況でのこの発言は「ちょっとまずいんでないかい?」と思ったり。日本のGDPギャップはいまだマイナスだしなあ。

 後段の「デフレを脱却できるかどうかではなく、どうしたら国民経済にインフレ体質が舞い戻ってこないようにできるかだ」について。たしかにマクロ経済学の教科書では経済厚生が最大になるのは「ゼロ・インフレ」の時です*1。ただ、物価指数には誤差(情報バイアス)がつきまといますし、「ゼロ・インフレ」を目指すよりは低めのインフレ率(2%程度)にコミットしたほうがいいはある程度コンセンサスが取れているものだと思っていましたが……


 もちろん、浜田先生のおっしゃりたいことはよく分かります。ただ、この状況でこういうことを言うのはいろいろと誤解を生みそうだなと思ってしまいます。

*1:経済セミナーNo673号に載っている「中級マクロ経済学 第9回 中央銀行と金融政策」やバロー『マクロ経済学』p562-563を参考のこと。ただし、バロー先生は「我々の分析の設定では(もし実現可能であれば)インフレ率をゼロにするとコミットすることが、金融当局にとって最善の選択肢である」、「ゼロの(あるいはもう少し一般的に言えば、低い)インフレ率云々」と慎重な書き方になっています