「不可能犯罪捜査課」(ディクスン・カー)感想
はじめに
1ヶ月以上前にあんなえらそうな宣言を出して以来音沙汰がまったくありませんでしたが、ようやく書いたよ!記念すべき1冊目の感想はディクスン・カー御大の短編集「不可能犯罪捜査課」です。
総評
ディクスン・カーの初期短篇集。不可解な事件を扱うD3課―不可能犯罪捜査課―のマーチ大佐の活躍を描いた作品が6つ。ノンシリーズもの4つが収録されています*1。
原書は1940年に出ている。そのため使われているトリックはどれも古典的といっていいものばかり*2。
「じゃあ、つまらないの?」と、思う人もいるかもしれないけど、そこはさすがのディクスン・カー御大。状況をあれこれ工夫―雪に閉ざされた密室、灯台の光が射す夜の街角、19世紀末の開拓町等々―して読者を飽きさせないようにしている。
前半(新透明人間から暁の出来事まで)の探偵役はD3課のマーチ大佐。カーの長編に出てくる「ヘンリー・メルベール卿(H・M卿)」や「フェル博士」と同じく巨漢なんだけど、その二人と比べるクセがないのですんなり受け入れられると思う。
本書は初期の短編集だけど、随所に「カーらしさ」が出ている。「雪に閉ざされた密室」、「夢遊病に悩む女性」、「夜の街の幻想的な情景」等々。カーの別作品で見たことのあるモチーフが顔を覗かせている。
それとカーの欠点である人物造型の薄さももちろん健在。でも短編だからそれほど気にならないと思う。でもなぁ「めくら頭巾」での似たような名前が出てくる―「ウェイクロス」と、「ウィルクス」―んだけど、これはちょっと……別にトリックと全然関係無いし(笑)。読むとき混乱するだけ(笑)。
というわけで、カー作品をある程度読んだ人、もしくはミステリ好きな人は、「このモチーフはカーのあの長編で見たことあるぞ」や「このトリックは別の作家のあの作品でも使われていたなぁ」と、ツッコミながら読むと楽しく読めるでしょう。
逆にカー作品を初めて読む人やミステリ初心者は、「ディクスン・カー作品はこんな感じか」と思いながら読むと良いでしょう。本書が気に入れば他のディクスン・カー作品も大丈夫なはず。……あぁ、そうだ。カーの長編作品に出てくる探偵役はこの短篇集に出てくる「マーチ大佐」より、かなりクセが強いのでその点だけ注意する必要があるかも。
何分古い作品なので、トリックの斬新さを期待すると肩透かしをくらってしまいますが、「カー作品の傾向」を知るには最適な短編集だとおもいます。
個別の作品感想
新透明人間
このトリックは手品が元ネタらしい。トリック自体より動機のユニークさがおもしろい。
空中の足跡
雪に閉ざされた密室が舞台。「雪に閉ざされた密室」、「夢遊病に悩む女性」という状況を読むと、どうしてもカーの長編作品である「白い僧院の殺人」を思い浮かべてニヤリとしてしまう。もちろん「白い僧院の殺人」で使われているトリックとは別のトリックが使われています。
ホット・マネー
いわゆる「心理的に」見えない場所に金を隠す話なんだけど、その隠し場所が日本では馴染みがない場所なのでいまいちピンと来ない。
楽屋の死
あんまり印象に残ってないな。
銀色のカーテン
薄暗い街角で行われる犯罪。灯台の光が射す夜の街が幻想的。
暁の出来事
主人公の目の前で、被害者が見えない何者かに殺される話。と、思いきや……
もう一人の絞刑吏
カーにしては珍しい―と言っては失礼か(笑)―法律の盲点をついたトリックが使われている。19世紀末のアメリカペンシルヴェニア州を舞台にすることによって、違和感なく読める。
二つの死
主人公が自分の死亡記事をみるというありえない状況+全編に漂う暗い(怪奇的)雰囲気が最高!もちろんそれだけだとただの「怪談ばなし」になってしまうので、ちゃんと落ちもつけている*3。緊張感を持ったまま最初から最後まで読める。
目に見えぬ凶器
古い館の昔話にすることによって、単純なトリックをありそうな話に仕立ているかな?雰囲気を楽しみましょう。
めくら頭巾
ミステリというかファンタジー全開の作品。話もキレイに終わっており読後の余韻がすばらしい。雰囲気を楽しみましょう。
あとがき
一太郎で文字数をカウントしたら1700字もあった。経済関係のエントリーもこれぐらい気合いれて書けばいいのにね(笑)