くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

市場経済を信頼せず、弱者にも厳しい日本人

現在、増田悦佐著「格差社会論はウソである」を読んでいます。まだ全部は読んでいないのですが、マスコミ等で流されている通説をばっさ、ばっさ、切っていく様は痛快です。今回は非常に印象に残った部分を紹介します。

 その部分は、「第2章 魔女狩りは、やめよう」という章の「『自己責任社会主義』が、生活保護の際限なき膨張を防ぐ」という節です(P85〜)。この前の節で増田氏は、困窮者に安定した生活を始めるきっかけとして、生活保護予算を拡充しよう!という提案を行っています。そして「それだと生活保護予算が際限なく膨張するんじゃないの?」という読者の懸念に対して、「そういった心配はほとんどない」と増田氏は答えます。なぜなら「日本人は「自己責任社会主義」とでも言うべき思想を信奉しているからだ」と。その証明を行っているのが、これから紹介する「『自己責任社会主義』が、生活保護の際限なき膨張を防ぐ」という節です。

 この節で増田氏は「ピュー・グローバル・アティチュード・プロジェクト」2007年版の調査結果を持ち出します。この調査によると「たしかに貧富の格差はあるが、ほとんどの人は自由な市場経済の元での方が良い生活ができる」という質問に対して、日本人の回答は「完全に賛成」と「ほとんど賛成」の割合が49%、「完全に反対」、「ほとんど反対」の割合が50%と、他の国々と比較して自由主義経済に対して不信感を持っていることが分かります*1

 また「自力で生きていけない人たちを国や政府が助けるべきだ」という質問に対しては、「完全に賛成」と「ほとんど賛成」の割合が59%、「完全に反対」、「ほとんど反対」の割合が38%と、他の国々と比較して弱者にも厳しい目を向けている日本人の姿が浮かび上がります*2

 この調査結果を元に増田氏は以下のように分析します。

 アメリカで国や政府の支援に対する反感が強いのは、自由競争の市場経済がうまく機能している人が多い(「完全に賛成」と「ほとんど賛成」の合計で70%)からだ。それに比べると、日本のように市場経済への反感も強くて、それなのに国や政府の支援もいやだと言う国民は、ほかには存在しない。日本人で特徴的なのは、「労働の果実は能力や成果に応じてではなく、努力に応じて分配されるべきだ」と信じているが、同時に「努力は報われないことが多い」とも感じていることだ。どうやら、「市場経済では努力が正しく評価されない」というところに、日本人が市場経済に対して抱く不満や反感の原因がありそうだ。
(中略)
 この難問に対する日本人の答えは、本当にスパルタ的で「報われないことが多くても、とにかく努力し続ける。努力が報われないからと行って、国や政府に泣きつくべきではない」というものだ。

そして増田氏は断言します

ただ、これだけ多くの人が、これだけ努力のかいもなく食べていけない人たちをきびしい眼で見つめている以上、国の生活保護予算が多少緩やかになったところで、再現もなく膨張して財政危機を招くというようなことがないことだけは、安心して断言できる。

増田氏の断言の妥当性はさておき、日本人って世界の国々と比較して市場経済を信じてなくて、世界の国々と比較して弱者にきびしい国民だったのですね。市場経済を信じず、政府の支援も当てにせず、ただ努力のみで突き進む……スゲーゼ、日本人!

エントリーの趣旨から外れますが、生活保護に対して増田氏はひとつ気がかりな点があるそうです。

最近気になるのは、とにかく少しでも生活保護予算の総額を削るために、先行して実施したアメリカでも失敗が確認されているような「職業訓練至上主義」への予算の付け替えが行われていることだ。

アメリカでは、失敗が確認されているかあ。日本は、どうするんだろう。

*1:アメリカの「完全に賛成」と「ほとんど賛成」割合は70%、他の国々の割合は、イギリス72%、フランス56%、ドイツ65%、ロシア53%、中国75%、インド76%となっています

*2:アメリカの「完全に賛成」と「ほとんど賛成」割合は70%、他の国々の割合は、イギリス91%、フランス83%、ドイツ92%、ロシア83%、中国90%、インド92%となっています。だいたいどこの国も8,90%賛成を示している中、日本の59%がいかに低い数字かが分かりますorz