Twitterである方が「リフレ派はなぜ安倍首相の賃上げ要請を批判しないのだろうか?名目賃金を上げたら実質賃金が上がってしまうのに。リフレ派は実質賃金の切り下げによって失業率を下げようと言っていたじゃないか。安倍首相の賃上げ要請はそのロジックを邪魔するものじゃないの?」といった趣旨のつぶやきをされていました。
さて、私の考えを述べる前に実質賃金の定義をしておきましょう。実質賃金は名目賃金を物価指数(消費者物価指数やGDPデフレーターなど)で調整したものです。式で表すとこうなります。
ここから、実質賃金を下げるためにはふたつの方法があることがわかります。ひとつは(物価水準を一定として)名目賃金を切り下げる。もうひとつは(名目賃金を一定として)物価水準を上昇させる。普通リフレ派は物価水準を上昇させて実質賃金を下げようと主張します*1。
さて、物価水準が一定ならこの方が言うように名目賃金の上昇は実質賃金の上昇をもたらします。しかし、いまは2%に向けて物価水準が上昇している段階です。よって、名目賃金の上昇によって実質賃金が上がるか下がるかは賃上げ率によると思います。
そして、ようやく本題の安倍首相の賃上げ要請についてなのですが、安倍首相がどの程度の賃上げを想定しているか分からないんですよね。安倍首相が名目でバブル期並みの6%の賃上げ要請をしたならば「そりゃ無茶だ」と反対すると思います。ただ、数%の賃上げ率ならば実質賃金はそこまで上昇しない、もしくは減少するかもしれません。もし実質賃金が減少するならば、引き続き失業率は低下し、労働市場の需給は引き締まることでしょう。ただ、4月に消費税増税という負のショックがあるので先行きは不透明ですが……
結論として、たぶん安倍首相の賃上げ要請は実質賃金に対してそんなに影響を与えないのではないかと思っています。むしろ、沢ひかるさんがこのエントリーで述べているように政府が賃上げについて前向きな姿勢をとることによって生じる「期待」の醸成の方が経済に対して影響を与えると思います。*2。
最後に春闘の賃上げ率の推移を見てみましょう。春闘の交渉は名目値なので消費者物価指数(コアCPI)とGDPデフレーターで調整した実質賃上げ率も描いてみました。
出典
GDPデフレーター基準で見ると実質賃上げ率はここ20年間あんまり変わってないのね。80年代の名目4,5%、実質で3%前後の賃上げ率が実現できたらなあ。