くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

白川浩道著『孤独な日銀』感想

 本書は日本銀行出身のエコノミストである白川浩道氏による日銀の組織に焦点を当てた本です。

 日本銀行の中の人が優秀なのは間違いないでしょう。「日本銀行には優秀な人たちが集まっているのに、なぜデフレを脱却できないのだろう?」という疑問は大昔からリフレ派の間でも話題になっていた記憶があります(いろいろな説が挙げられていた記憶が)。本書は日本銀行出身者が書く日銀組織論ということなので期待して読んでみました。

 で、感想なのですが、ちょっと踏み込み不足かなあ。個々のポイントでは興味深い記述があるのですが、全体として著者のいいたいことがぼやけているような気がします。というわけで、このエントリーではおそらく著者がもっとも主張したいことであろう政府と日銀の関係を述べている第5章の部分の感想を書き、別のエントリーで興味深かった記述を紹介する形を取りたいと思います。

 それではまず「第5章 日銀の孤独と悲劇」(P184-211)の要点を書き出してみます。

  • 近年、バブル崩壊後の15年間の景気低迷やリーマンショック後の円高進行について日銀の消極性のみに責任を負わせようとする「日銀単独責任論」とも言える言説が跋扈している。
  • しかしながら日銀は新日銀法による制約や政府や国会などの意向を受けて動いており、完全な独立性を有しているわけではない。
  • 経済政策は政府(財政政策)と日銀(金融政策)の歩調を合わせることが重要。この意味において、マクロの経済運営は「日銀と政府の共同責任」である。
  • もちろん過去において日銀が「独立性」にこだわるあまり、政府の意向を無視して引き締めたこともあった。これが「日銀単独責任論」を生み出したのは否めない。
  • 安倍首相の登場により、これまでの日銀バッシングは鳴りをひそめるかもしれない。なぜなら安倍首相は2013年1月22日に日銀と「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」*1 をだし、デフレ脱却は「政府と日銀の共同責任」であることを明確に打ち出したから。
  • 安倍首相登場からの流れは、一般の人に日銀の敗北を印象づけたかもしれない。だけど、日銀から見れば過度のプレッシャーから解放されたことを意味し、必ずしも悪いことではない。
  • しかし、共同声明に関しては責任についてまだまだ曖昧な部分があり、曖昧な部分を明確にしておくことが必要。


 特に問題がある意見だと思わない。穏当な意見だと思います。飯田泰之先生がどこかの本(別冊宝島の『日銀の大罪』だったかしら?)で「政府と日銀の責任が曖昧なので、日銀としてどこまでやっていいか分からない」という日本銀行の中の人の声を紹介していたけど、その声とも一致していると思います。日銀の消極性は政府と日銀の関係性が曖昧だったために生じたのか。

 それと、こんなブログをやっていてこんなこというのもなんだけど、「日銀単独責任論」ってそんなに声高に叫ばれていたかしら?政府と日銀どちらに批判の力点に置くかの違いはあるけど、だいたいほとんどの人は両方批判していたと思うのだけど。白川浩道氏は「白川総裁時代に多くの政治家から日銀の金融政策について批判されたが、財務省も他の省庁も学者もエコノミストも誰も日銀を守ってくれなかった」と嘆いているんだけど(p192-193)、そんなに多くの政治家から批判されてたかなあ?山本幸三議員などメンツはあまり変わっていなかったような……。安倍首相登場以降の話なのかな?あれはたった半年でガラリと変わってしまった感じだからしょうが無い気がする。

 オススメ度は5段階評価(最高が5)で2かなあ。はじめの方にも書いたけど、個々のポイントだと興味深い記述があるのはたしかなのだけど……

孤独な日銀 (講談社現代新書)

孤独な日銀 (講談社現代新書)

*1:声明文はこちら*pdfファイルです