くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

時給とサービス物価の関係はどうなってる?

 安倍首相は「物価目標2%」を掲げています。そこで、誰しも疑問に思うのが「物価と賃金の関係性」ではないでしょうか?*1この疑問に答えてくれるレポートが内閣府で公開されています。

008 賃金の動向とその物価への影響について(内閣府 マンスリー・トピックス)*pdfファイルです

 このレポートのいいところは2000年から2010年までの動向を分析しているところ。つまり、ここで分析されたことはだいたい今でも適用できると考えられます。

 というわけで、いくつか気になった図と最後のまとめの部分を引用。


 

 このグラフを見ると、どうやらパート(非正規雇用)の方が一般よりも物価の上昇に対してかなり敏感に反応している。……うーん、こう書くと誤解を生むかも。一般的にサービス物価の上昇要因としては賃金の上昇が大きいと言われている。つまりここで起こっていることは


パート(非正規)労働者の需給逼迫→パート(非正規)労働者の賃金上昇→サービス物価の上昇


 です。このことは引用した図12の時給に対するサービス価格の弾力性を見れば理解できると思います。

 
 「物価が上昇しても賃金――特に非正規雇用の賃金――があがらないかもしれない」という懸念はよく耳にします。しかし、過去(しかも2000年代!)をみると、ちゃんと賃金は上昇している。2000年代から産業構造はそう変化してないはずだから、今回の局面でも非正規雇用の賃金はサービス物価の上昇率より伸びるでしょう。

ちょっと脱線
 企業側はなるべくサービス物価の上昇を抑えたいはずです。じゃあどういう行動を取るだろう?サービス物価の上昇要因は賃金の上昇です。非正規雇用正規雇用の賃金の上昇率を見てみると、正規雇用の方が伸び率が小さい。ということは、サービス物価の上昇を抑えるために、企業は非正規雇用から正規雇用へ切り替えるんじゃないだろうか?この予測は当たっているのかな?どうなんだろうなあ。
脱線終わり
 

 最後にレポートの結論部分を引用。

○我が国の平均賃金には、一般労働者の所定内給与にて構造的な押下げ要因がある。具体的には、医療・福祉やサービス業等での賃金の伸び悩みが平均賃金を押し下げており、こうした産業への労働者の移行と相まって、構造的な要因となっている。その他、一般労働者における非正規雇用比率の上昇や、相対的に賃金の高い高齢者の定年・嘱託化等、及び、相対的に賃金の低い新入社員の労働市場への参入が押下げ要因となっている。ただし、足下ではややその効果が弱まっていることが示唆された。

○サービス業の時給(所定内給与を換算)とサービス物価の弾力性について、職種別にみると、一般労働者と比較し、パートタイム労働者の弾力性が高い。また、産業別にみると、財・サービスの生産において労働集約的な卸売業・小売業、運輸業・郵便業、情報通信業で弾力性が相対的に高い。パートタイム労働者の時給は、足下の労働需給の改善に伴い、今後、安定的な上昇が期待され、また、サービス物価との弾力性が相対的に高い産業の時給は、近年、前年同期比がプラス圏内で推移している。こうした動きが今後も続けば、徐々にサービス物価へ転嫁されていくものと考えられる。

 
 医療・福祉産業は医療制度の要因があって賃金があんまり伸びてないみたいだ。……そういえば、民主党政権は看護や介護の分野へ労働力を集中させようとしていたみたいだけど、賃金(所得)という面からみたらマズイ政策だったんじゃないだろうか?

 それと、これから景気が上向き始めたら、医療・福祉産業の人手不足は深刻になるんじゃないだろうか?*2解決策のひとつとしては賃金を上げることだけど、医療制度の現状を考えると……

 

*1:パッと目についたものでは、濱口桂一郎先生のこの文章とか。

*2:いまですら人手不足と言われている業界なのに