はじめに
なんと、著者御本人から献本をいただきました。ありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。
章構成
序章 日本の食卓を支える野生生物
第1章 漁業は見えざる手に導かれず
第2章 カツオがマグロに、タラがカニに
第3章 魚を獲る仕事、魚を獲る遊び
第4章 海洋大国日本
第5章 魚の値段と油の値段
第6章 魚市場とレモン市場
第7章 食料自給率のマジック
第8章 漁業はエコか
第9章 漁業における貧困と格差
第10章 水産物貿易のドライバー
第11章 人間の幸せか、魚の幸せか
感想
本書に目を通して下さった方々には、魚と経済学が結びついていることをおわかりいただけることと思う。ゲーム理論や実験経済学・行動経済学はもちろんのこと、貿易論、開発経済、環境問題、そして海洋を舞台に繰り広げられる国際性政治など、お好みに応じていろいろな切り口がある。(中略)漁業という響は少し(かなり)ダサいが、意外と最先端のトレンドがここにあったりする、かもしれない。*1
本書は、経済セミナーで連載されていた「魚の経済学」を加筆修正してまとめたものです。筆者が前置きで述べているように、基本的に各章で完結しているので、興味あるところだけを読むことができます。魚の「経済学」という題名ですが、数式はほとんどありませんので*2、数式を見ただけでアレルギーが出るという方でも安心です。経済学の考え方(概念)やグラフは出てきますが、それも文中でしっかり解説しているので、経済学を知らない人でも読めます。
本書を読んだ感想は、はじめに引用した著者本人の文章に尽きます。漁業ひとつとってもこんなに切り口があるなんて!まさに目から鱗です。なぜ漁船が過剰な設備投資を行うか(漁獲量が決まっているため早いもの勝ちになってしまう。他の漁船より多く取るためには設備をよくするしかない)、資源管理の難しさ、、魚の自給率が上昇したのは、みんなが魚を食べなくなったから!(魚の自給率計算方法に問題がある)、水産貿易の活発さ(総生産量に対する貿易量の割合は約40%と、穀物(約12%)、肉類(約10%)と、比べて群を抜いて多い。)とその要因等々、全部書くとものすごく量が多くなるのでこれぐらいにしますが、ページをめくる毎に、( ・∀・)つ〃∩ ヘェーヘェーヘェーと、「へえボタン」を押したくなります*3
本書は、漁業の現状とその課題に対する見取り図を提供してくれる本です。よって最近話題になっている、「水産物資源枯渇問題*4」をすぐに解決する魔法のような方法は載っていません*5。けれどもそのことについて、著者自身が考えを述べている箇所があります。
ともあれ水産物の場合、目的を食料安全保障に置くのならば、自給率向上よりも簡単で有効な手段がある。それは生産しないことだ。筆者の自説を述べることをお許しいただければ、極論になるが日本の200カイリ水域内の水産資源をできるだけ獲り控え、飽和状態に近いところまでストックを増やしておくことが一番の食料安全保障になる。
(中略)
資源が回復すれば、今度は科学的根拠に基づいた資源管理のもとで漁業を再開すればよい。*6
著者は、「極論」と言っていますが、私にとっては当然の意見のように思う(笑)。いかにスマートに―一般人に反発されないように―実行するかが、問題でしょうね。
どんな人に本書がオススメか
当然のことながら、水産物資源問題に興味を持った人には、オススメです。あとね、やっぱり若い人に読んで欲しい。前にも書いたけど、本書は数式なんか全然ないので、高校生や大学に入ったばかりの学生さんでも十分読み通すことができます。本書を読んで、水産物資源管理研究の道に進む人がひとりでも多く出てきて欲しい。そうしたら、末永く魚を食べることができるかもしれないからね(笑)。
それは冗談として、こういうときこそ日本が率先して水産物資源管理のイニシアチブをとらないと。今回のクロマグロ禁輸案や捕鯨問題についてネット上を見ると、やっぱり感情的な反応が多いように感じました。感情的になる前に本書を読んで、冷静な視点を持って欲しいものです。感情的な議論って結局不毛な水掛け論になってしまうし。そうこうしている間に魚は減っていく……
以下余談
ついでに、経済学も勉強して欲しいなあ。本書は数式がないとはいえ、需要と供給、貿易論、情報の非対称性といった(ミクロ)経済学の概念が使われています。経済学は学んでいて損はない学問なので*7、若いうちに身につけておくといいですよ。いまなら何がいいかなあ?やっぱりポールクルーグマンの「クルーグマン ミクロ経済学」が一番かな?ただこれは、高いし(約5,000円)、でかいんだよな(笑)。
↑参考画像
大学の図書館には、大学生の方は一度手に取ってみてはいかがでしょうか。高校生はちょっとツラいよなあ(内容がではなく、金銭的に。図書館にも置いてないだろうしなあ)。