くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

経済セミナー(2013年10・11月号)を読みました

 今号の特集は「日本国債のゆくえ」。つまり財政問題ですね。経済セミナーで財政問題の特集は定期的に組まれており、3年前にも特集が組まれています。

↑こちらが3年前の経済セミナー


 今回の巻頭対談は石弘光先生と吉川洋先生。おふたりの対談を読んでみると「(粗)債務GDP比の大きさ」*1を特に問題視しているように感じました。対談の中身を簡単に要約すると、

  • 日本は(粗)債務GDP比の大きさが200%が超える。(粗)これだけの債務GDP比は経済のリスク増大をもたらす。リスクとしては短期的な長期金利上昇があげられる。(粗)債務比が増えるにつれて債券市場における長期金利上昇の確率は高まる。これはマズイ。
  • 経済成長だけで債務比を減らすのは難しい。安定的な税収や無駄を省いた財政運営のルールを構築する必要がある(長期的な視点)。
  • 財政赤字の問題はノーマルな経済の話から切り離して考えるべき
  • 国の借金を全額返す必要はない。(粗)債務GDP比を低めに保つことが重要。
  • まずは基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目指すべき(政府目標の2020年の黒字化は難しいだろうけど)。
  • 社会保障の給付削減も視野に入れなければならない


 「財政赤字の問題はノーマルな経済の話から切り離すべき」や「社会保障給付削減も視野に」という点は賛成しないけど、あとは特に問題ある意見とは思えない。結局の所、争点は「財政再建を実行するタイミング」かなあ。タイミングとしてはデフレ脱却して安定的な経済成長(名目3,4%ぐらい)を達成したあとでやっても手遅れではないと思うのだけど。

 社会保障の給付削減について。ひとくちに「社会保障費」といっても、「年金」、「医療」、「その他福祉」に分かれる。で、社会保障費の半分が年金なのよね。

出典 社会保障費用統計(平成22年度)(国立 社会保障・人口問題研究所)
 削るとしたらどこを削ればいいんだろう?

 
 対談の後半は財政の話からデフレ脱却の話(吉川先生のリフレ政策評)に移っています*2。これについて別エントリーでまとめたいと思います。
 
 特集記事は、国債管理の仕組みや、政府が公表しているバランスシートの見方など実務的な内容が多かったです。実務家でもなんでもない私は「へー、そうなんだ」といった感じで読みました。

 その中でも岩本康志先生の「政府累積債務は経済成長を阻害するか」が興味深かったです。内容は、少し前に話題になったラインハート&ロゴフ論文騒動の解説なのですが、最後のまとめとして「経済学の知見は日々進歩している。経済学の知見を現実社会に適用する場合は、最新の研究成果に無批判に飛びつくのではなく、長く学会で支持されている知見を応用した方が危険性が少ない。経済学はまだまだ発展途上の学問なので、政策に使う場合はその限界を認識して取捨選択するリテラシーが必要である(要約)」と、なんとも謙虚な意見。


 次回の特集は「金融政策」です。巻頭対談は岩田一政先生と渡辺努先生。「質的・量的緩和」からまだ半年ぐらいしかたってないので、金融政策について評価するのはまだ早い気がするけど、今号に引き続き楽しみな特集です。

*1:対談の中では「デットGDP比」という言葉を使っています

*2:セミ編集部は読者のニーズがよく分かっている(笑)