くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

首相公選制はある種の「独裁」なのか?

橋下氏「ある種の独裁で物事進められないと」国政混乱で(asahi.com)

 「日本の政治は機能していない」。大阪府橋下徹知事は2日午後、内閣不信任案の採決や菅直人首相の辞任表明で混乱する国政について、報道陣の取材に「首相を選ぶ人事権を国会議員に委ねるのは、もうやめた方がいい」と語った。

 橋下氏は、国民が首相を直接選ぶ公選制が持論。「一定のルールの中で、ある種の独裁で物事が進められるような形を作らないといけない」「議院内閣制は独裁は防げるかもしれないが、リーダーシップを発揮できない」とも述べた。

 ちょっと引っかかる部分があるぞ。首相公選制でまず思い浮かぶのはアメリカの大統領制です。アメリカの大統領制ってある種の独裁と言えるのかな?とりあえず私の手元にある、「アメリカの社会と政治」(五十嵐武士他編)と、「はじめて出会う 政治学」の第8章「内閣と総理大臣」*1をざっと見てみたけど、大統領制がある種の独裁とは書いていない。

 そもそも橋本府知事が言うように、議院内閣制は弱いリーダーしか生み出さないのでしょうか?実は、「はじめて出会う 政治学」の第8章「内閣と総理大臣」には、それをテーマとした「議院内閣制は弱いリーダーをつくりだすのか?」という節があります。そこからいくつか引用してみましょう。
 

ここまで、内閣総理大臣には相当の影響力資源があるにもかかわらず、実際にはなかなかそれを活用して影響力を行使するのが難しいという状況を見てきた。戦前に比べて総理大臣の権限は飛躍的に増大したが、総理大臣の影響力拡大にストレートには結びつかないのである。
 そこで最近は、総理大臣の力を制度的に強めて、リーダーシップをもっと古いしやすくしようという制度改革が行われてきた。それが橋本内閣による省庁改革である。

 

しかしまた、一概に議院内閣制の総理大臣が弱いと言うこともできない。総理大臣は長年のキャリアを議会内で築き上げてきた。彼は相当の政治力持ち主のはずである。初めに述べたように、総理大臣は国会に基礎を置き、国会とともに働けるので、制度上は非常に強力でありうる。

 

 他方、大統領の場合はどうであろうか。大統領になるために議会内での地位を確立していく必要はない。現代のアメリカ大統領にとって重要なのは、長期にわたる大統領選を勝ち抜くことである。
(中略)
 大統領は、ワシントンにおける議会政治の発想からは生まれない斬新なヴィジョンを打ち出す。しかしそのような大統領は、議会を相手にした経験が少ないために、妥協や必要な政治的駆け引き、実行力に欠ける傾向がある。

 

 日本の総理大臣とアメリカの大統領には一長一短がある。アメリカの大統領は全国レベルの公共の利益に訴えかけるヴィジョンを示す点では強いが、連邦議会との政治的な駆け引きに必要な政治的な資源を欠く傾向にある。これに対して日本の総理大臣は、全国的なヴィジョンを打ち上げるよりは、国会内での利益調整に強みを発揮する傾向にある。われわれが見てきたところでは、それに成功するか否かは資源をうまく活用できるかにかかっている。

 

 本章では、日本の総理大臣をアメリカの大統領と比較しながら、そのリーダーシップ、影響力について考えてきた。大統領制でなく議院内閣制という政治制度をとることで、日本の総理大臣はアメリカの大統領より大きな権限を持っているといえる。
(中略)
 しかし、権限が多いからといって、総理大臣が大統領よりも強い影響録を行使できるとは限らない。世論や利益集団、外国の支持なども重要な影響力資源であり、それらの資源をどう使いこなせるかは、リーダーの技量によっても大きな違いが出てくる。

引用者注:各引用部分の強調部分は原文どおり

 出血大サービスで第8章のまとめ部分も一部引用しました。引用部分を一読してもらえれば分かりますが、内閣総理大臣もかなり強力な権限を与えられているようです。そして、それをうまく使うのはその人の技量次第という(当然と言えば当然の)結論が書かれています。

 橋本府知事はどのような制度を思い描いているか知りませんが*2、ちょっとストレートに野望を出し過ぎじゃありませんかね(笑)。

*1:この章では日本の総理大臣とアメリカの大統領を比べながら、議院内閣制と解説をしている

*2:首相公選制(大統領制)は国によってまちまちと、「はじめて出会う 政治学」にも、書かれている。