くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

リーダーシップを求めた末路

 今さらな話題。野田首相が「政治判断」でTPPの交渉参加を決めたニュースを見たとき、「やはり日本の総理大臣は強力な権限を持っているんだな」と、思いました。以前、「はじめて出会う 政治学」の第8章「内閣と総理大臣」を引用したエントリーを書いたのですが、もう一度ここでその引用を再掲。

ここまで、内閣総理大臣には相当の影響力資源があるにもかかわらず、実際にはなかなかそれを活用して影響力を行使するのが難しいという状況を見てきた。戦前に比べて総理大臣の権限は飛躍的に増大したが、総理大臣の影響力拡大にストレートには結びつかないのである。
 そこで最近は、総理大臣の力を制度的に強めて、リーダーシップをもっと古いしやすくしようという制度改革が行われてきた。それが橋本内閣による省庁改革である。

 

しかしまた、一概に議院内閣制の総理大臣が弱いと言うこともできない。総理大臣は長年のキャリアを議会内で築き上げてきた。彼は相当の政治力持ち主のはずである。初めに述べたように、総理大臣は国会に基礎を置き、国会とともに働けるので、制度上は非常に強力でありうる。

 

 他方、大統領の場合はどうであろうか。大統領になるために議会内での地位を確立していく必要はない。現代のアメリカ大統領にとって重要なのは、長期にわたる大統領選を勝ち抜くことである。
(中略)
 大統領は、ワシントンにおける議会政治の発想からは生まれない斬新なヴィジョンを打ち出す。しかしそのような大統領は、議会を相手にした経験が少ないために、妥協や必要な政治的駆け引き、実行力に欠ける傾向がある。

 

 日本の総理大臣とアメリカの大統領には一長一短がある。アメリカの大統領は全国レベルの公共の利益に訴えかけるヴィジョンを示す点では強いが、連邦議会との政治的な駆け引きに必要な政治的な資源を欠く傾向にある。これに対して日本の総理大臣は、全国的なヴィジョンを打ち上げるよりは、国会内での利益調整に強みを発揮する傾向にある。われわれが見てきたところでは、それに成功するか否かは資源をうまく活用できるかにかかっている。

 

 本章では、日本の総理大臣をアメリカの大統領と比較しながら、そのリーダーシップ、影響力について考えてきた。大統領制でなく議院内閣制という政治制度をとることで、日本の総理大臣はアメリカの大統領より大きな権限を持っているといえる。
(中略)
 しかし、権限が多いからといって、総理大臣が大統領よりも強い影響録を行使できるとは限らない。世論や利益集団、外国の支持なども重要な影響力資源であり、それらの資源をどう使いこなせるかは、リーダーの技量によっても大きな違いが出てくる。

引用者注:各引用部分の強調部分は原文どおり

 この引用から分かることは、90年代の「政治改革」で総理大臣の権限は強化された。そして総理大臣は国会を基礎に置き国会とともに動ける。ということは、国会さえ抑えておけばかなり自由にやれる。

 「独裁」と言う声もあるかもしれませんが、90年代の総理大臣の権限強化は、「リーダーシップ」を求めた世論の後押しがあるのは想像に難くない。

 総理大臣の権限を最大限に生かして行動している野田首相は「有能」と言えるかもしれません(少なくともこう言った権限を全然活用できなかった前任者ふたりと比べれば)。それとも誰か入れ知恵しているのだろうか?



余談
 こんなに総理大臣の権限が強化されているなら、総理大臣が「デフレ脱却」に本気で取り組めばあっさり脱却できそうな気がする。いままで、日銀の責任8:政府の責任2と思ってたけど、6:4ぐらいで考えた方が良さそう。