くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

「世界大恐慌−1929年に何が起こったか−」(秋元英一著)を読みました

 本書は、世界大恐慌というタイトルですが、世界規模で大恐慌を描いているわけでなく、大恐慌下のアメリカを描いた本です。

 世界恐慌の始まりから、恐慌かにおける市民生活の悪化、そしてその時(フーヴァー政権)のアメリカ政府の行動、ルーズベルト大統領のニューディール政策、その元となったケインズ理論の説明と、コンパクトながら当時のアメリカの状況を知ることができます。データやグラフも随所に載っていて読みやすい本田と思います。印象に残った部分をいくつか引用

 恐慌がしだいに広がり、失業者がふえるばかりだったが、当初失業者の多くは、「仕事を見つけられない奴はどこかおかしいんだ」し、たしかに俺は仕事をなくしたけど、俺はまだ立派な仕事をやれる。仕事はすぐ見つかるさ、と感じていたのだった。(中略)職業斡旋所はどうか。長く待たされるが、まあ仕事に就くためには行く価値がある。そしてついにチャンス到来。質問は、氏名、年齢、経験。「そうですね、どうなるか、できるだけのことはしてみましょう」と職員はいう。「でも、同じような経歴の人がもうすでにこのファイルに100人以上登録していて、ほとんどの人はあなたより若いんですよ」。
 雇用する側が選べるんですよ、買い手市場だから。まだ20歳代の失業者がたくさんいるのに、何で40歳以上の人間を雇う必要がある?結局のところ、会社は効率が良くなくちゃ。
 1934年に絶望したシカゴの住民がこういった。「40歳を超えた男はもうやめて自殺すのがいいのさ」。(後略)

 この文章は「第2章 市民たちの大恐慌」のはじめに引用されている、歴史家マッケルヴェインの失業者の行動と心理についての文章(の一部)です。第2章は、テーマがテーマだけに何度も読み返してしまいますし、引用したい箇所がたくさんあります。もう1つだけ引用
 

家族も試練にさらされていた。結婚率も出生率も劇的に下がった。 
 誰もが盗みをしても不思議でない状況下で略奪者であり、また臆病者である「コヨーテのような精神」が語られた。失業した父親は家族の中で権威をなくし、軽蔑の対象となった。2年間、自尊心を保つために自分の家の塗装をしている人もいた。
 不況(ディプレッション)は、精神的な抑鬱状態(ディプレッション)をも意味したのである。誰もが仕事を失う恐怖の中で生きていたと言っても過言ではない。

 本書は、恐慌下のアメリカについて書かれた本ですが、「第5章 ケインズ理論への道」では、アメリカの経済政策と比較するために、恐慌下の日本がとった経済政策について簡単に触れられています。その第5章の最後はこういった文章で締めくくられています。

本章を通じて、アメリカと日本におけるケインズ理論の経済政策への適用の経緯を見てきた。(中略)日本の場合には、英米調教の外交路線の延長上にあった金本位制復帰の井上財政からケインズ的な高橋財政への転換は急激であり、高橋是清という傑出したエリートの存在に依存刷る面が非常に大きかった。逆に言えば、それ以外のインテリや一般国民の政策意識とはかけ離れていたのである。ここにも日本の悲劇の一端を見る思いがする。

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