僕らは放課後探偵団!(「放課後探偵団」感想)
総評
本書を読んだ後に、「本書に収録されている作家の作品って持ってたかなぁ?」と思って本棚をあさった結果が上記の写真です*1。ショーペンハウアー先生の教えを守り*2、古典を中心に読んでいる枯れた爺さんのような私だけど、結構若手作家の本を持ってたんだなぁ(笑)。さて、自分の話はこれぐらいにして、本書の感想を。
本書のコンセプトはふたつ。「1980年代生まれの作家」による「学園(青春)ミステリ」。東京創元社としては、「若手作家の見本市」という目論見もあるのでしょう。そういえば私も1983年生まれだったっけ。さて、1980年代生まれ作家の実力は如何に?
まずは文章の読みやすさから。どれも読みやすいです。キャラの台詞も不自然さはないし、掛け合いも楽しい。文章力という点はどれも問題なしと言えるでしょう*3。
学園ものと言うことで血なまぐさい話は無し。どれも爽やかな読後感を得られる作品ばかりです。恋愛話が多いよね。中、高と将棋部一筋6年間、図書委員も6年やっていて、女の子とこれっぽちも縁がなかった身からすればうらやましい話ばかり(笑)。
もうちょっと怪しい話も欲しいよね。例えば、私が通っていた大学では、「学祭の時に開かれているという「闇の麻雀大会」*4でツバメ返しを成功させたやつがいる!」という噂があったけど、これネタになりませんかね(笑)。麻雀ネタに限らず学校というのはいろんな噂が飛び交っていたなぁ。
作品の話に戻すと、この中で一番ずば抜けているのは、梓崎優先生の「スプリング・ハズ・カム」でしょう。同窓会を舞台として、最後の「あっ」という展開、無駄のない構成、文章力ももちろんある。受賞作が各方面で絶賛されただけのことはある。文句なしにオススメです。
ただ、個人的な好みを言えば、鵜林伸也先生の「ボールがない」が一番好き。なぜか?それはこれを読んでいると、高校生時代、難しい詰め将棋を解いている自分を思い出すのです。
思いつくかぎりありとあらゆる可能性を試し、「駄目だぁー」と思って、問題をもう一度見ると、「あっ、この駒置き忘れてた」。そしてあっさり解ける(今までの努力は何だったんだ!)。
いやぁ、懐かしい。私の高校時代を思い出して胸がキュンとなったのは、この作品でした。というわけで、個人的に鵜林伸也先生「ボールがない」も、オススメしたい。
全体を見ればどれも読みやすく、買って損はないアンソロジーでしょう。ポップな表紙もグッド。
個別作品の感想は以下より
- お届け先には不思議を添えて(似鳥鶏)
葉山君シリーズ。過去の学祭を収録したビデオテープが運んでいる途中ですり替わってしまった!という話。トリックのネタ自体はそんなに難しくないが、人間関係が複雑で混乱する。ゆえに動機と犯人が見えにくい。
- ボールがない(鵜林伸也)
野球部を舞台にした話。1個ないボールを探す話。総評でも書いたけど、話の展開がいいのよ。そして最後のオチも。
- 恋のおまじないのチンク・ア・チンク(相沢沙呼)
「午前零時のサンドリヨン」持ってるけどまだ読んでなかった。というわけでこのシリーズは初読み。バレンタインデーを舞台にした話。この話を読むと、バレンタインデーって女の子にとって大事な日であると同時に、男の子にとっても大事な日だったんだよな。ということを思い出す*5。
- 横槍ワイン(市井豊)
犯人(って言っていいのかなぁ?)の動機とそれを実行しようと思い立った理由が面白い。津田君に幸あれ!
- スプリング・ハズ・カム(梓崎優)
高校の同窓会を舞台にした話。構成に無駄がないのよ。「あれ、この記述いる?」と思った箇所でも、ちゃんとラストで説得力を持つ記述となっている。オチは反則すれすれというか、文章力がない作家が書いちゃうとしらけるような展開なんだけど。この作品はちゃんと読者を納得させることができている。