くじらのねむる場所@はてなブログ

岡山県南西部在住。1983年生まれの40歳。経済、ミステリ、ウイスキー等について細々とブログに書いています

政商としては優秀だよなぁ

<再生エネ>原案価格決定 太陽光42円、風力23〜57円(ヤフーニュース)

経済産業省有識者会議「調達価格等算定委員会」(委員長=植田和弘・京大大学院教授)は25日の会合で、7月に導入する「再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り制度」の原案をまとめた。次回会合で正式決定する。焦点の電力会社が発電事業者から買い取る際の価格は、太陽光発電が1キロワット時当たり42円、風力発電が同23.1〜57.75円など。買い取り期間は15〜20年とした。発電事業者の要望に近い価格水準とすることで、再生エネの普及を目指す。

「票が欲しいか。ならば42円で買い取れ。20年で、だ」(Togetter)


正式決定はまだですが太陽光発電の買い取り価格は、市場価格よりかなり高い価格(プラス長期間)になりそうです。当然この負担は電気代として私たちが負担することになるでしょう。

 経済学だとこういう補助金制度は市場を歪めてしまう(非効率な資源配分が起こってしまう)から、あまり良くない手段なんですけどね。

 どうしてこんなことがまかり通るのでしょう?それは、負担する層と利益を受け取る層が違うために起こります。

 負担する層は全国民(1億2千万人)です。負担額の総額がいくらになるか分かりませんが、300億ぐらいに仮定しましょう。そうすると、ひとりあたりの負担額は250円です……たったこれっぽっちの負担額なら誰も反対運動なんてしませんよね。反対に、補助金(利益)を受け取る層は特定の業界です。これは負担する層よりはるかに少数ですので、1社あたりの受け取る利益はそこそこの額になります。

 ようするに、よく子どものときに想像していた「みんなから100円ずつ集めれば、ぼくは大金持ちだ!」を実行しているわけです。

 ティム・ハーフォード先生は『人は意外と合理的』のなかで、こういった現象を「少数者が多数者を搾取する」と述べています*1

 孫正義氏の真似をしたいという方もおられるかもしれませんが、ティム・ハーフォード先生によると、こういった仕組みで儲けるためには、2つほど超えなければならない障壁があります。その2つとは、

  1. 搾取を簡単に包み隠さなければならないこと
  2. 恩恵に属しそうな人が正真正銘の受益者でなければならない


 一つ目は「そうだろうなぁ」と思われるでしょう。二つ目がちょっとわかりにくいですね。二つ目の言いたいことは、ようするに、「自分(の業界)以外の人がこの仕組みに参入してこないようにしなければならない」ということです。

 これも考えてみれば当然ですよね。だってみんな参入してきたら1社あたりの利益は減ってしまう。ティム・ハーフォード先生によると、これは結構難しいことらしい。このあたりの部分を引用。

 ロビー活動がもたらす便益がかぎられた利益団体の所に確実にとどまっているようにする必要がある。これはそう簡単な話ではない。

 新規参入が難しい業界、経済学用語で言う「参入障壁が高い」業界のほうが、補助金を求めてキャンペーンを展開することが合理的になる可能性が高い。しかし、その業界が好況に沸いている場合には、たとえ参入障壁が高くても、それだけでは十分とは言えない。(中略)新たなライバルが嬉々として参入障壁をよじ登り、補助金を手にして、成長する市場で投資が実を結ぶのを見守るようになると思われるからだ。

 これに対し、自動車や鉄鋼など*2の、参入コストが高く、長期見通しがはかばかしくない産業にいるのであれば、補助金を求めてキャンペーンを展開するのは合理的である。たとえ施しを受けられるとしても、新たに巨大工場を作って斜陽産業に参入する競争相手などいないからだ。関税や補助金があれば、工場をいったん建ててしまえば、運営するに十分な利益を確保できるかもしれないが、新しい工場を建設するコストをカバーするほどの採算はあげられないだろう。政治の観点から見れば、これは完璧である。

 
 経済学の言葉を使えば、固定費は高いけど限界費用が低い斜陽産業はこの仕組みで儲けられるみたいだ。太陽光発電のコストを考えてみると……たしかに、この条件に合致しているような気がする。

うーん、孫正義氏は(政商として)優秀だなw

*1:ティム・ハーフォード著『人は意外と合理的』第8章「合理的な革命」p292より

*2:引用者注:間違える人はいないと思うけど、ここではアメリカの自動車や鉄鋼業界を指します