同じものをソースにしているはずなのに記事の論調がここまで違うのは興味深い
中央銀行独立でインフレ抑制 政治介入はリスクと警告(47ニュース(共同通信))
国際通貨基金(IMF)は9日発表した「世界経済見通し分析編」で、中央銀行の独立性を保つことがインフレ抑制に最も有効であり、金融政策に政治が介入した場合「リスクが生じることは歴史が示している」と警告した。
中銀の独立性が揺らぎかねない日銀法改正が検討される日本では、将来インフレを招く恐れもある大胆な金融緩和が打ち出されたばかり。インフレ抑制も法改正での重要な論点となりそうだ。
報告は、金融危機後、各国の物価上昇率は中銀が示す目標の範囲内に収まっていると指摘。「インフレを招く恐れがあるという理由で金融緩和を避けるべきではない」と提言した。
「物価上昇恐れ金融緩和ためらうな」 IMFがお墨付き(朝日新聞)
世界の中央銀行は、将来物価が急上昇する懸念を理由に金融緩和をためらうべきではない――。そんなリポートを国際通貨基金(IMF)が9日、発表した。日本銀行の大幅な金融緩和にお墨付きを与える内容だが、「中央銀行の独立性は保たれなければならない」と釘も刺した。
リポートによると、2008年のリーマン・ショック後、先進国に様々な影響が及んだにもかかわらず、各国では大幅なインフレが起きていない。その理由として、企業や消費者が物価が上がると予想する「インフレ期待」が、中央銀行の目標近くにとどまっていることを指摘し、インフレ目標政策を導入した国々で効果をあげていることを強調した。
そのうえで、IMFは「金融当局は、高インフレへの懸念を理由に大幅な緩和策の追求をためらうべきでない」と結論づけた。
元のソースを確認してみましょう。おそらくWorld Economic Outlook (IMF)のChapter 3: The Dog That Didn't Bark: Has Inflation Been Muzzled or Was It Just Sleeping?(*pdfファイルです)をソースにしていると思われます。全文読むのは骨なのでプレスリリース(*pdfファイルです) を見てみましょう
要点を引用
During the Great Recession, inflation barely moved despite the large shocks—the inflation dog didn’t bark because: Inflation expectations remain anchored to central bank targets.
Resistance to nominal wage cuts and other rigidities mean that increases in cyclical unemployment have put limited downward pressure on inflation.
With long-term inflation expectations firmly anchored, inflation is also likely to remain stable as the recovery strengthens—the dog has been muzzled and is unlikely to bark. Therefore, fears about high inflation should not prevent monetary authorities from pursuing highly accommodative monetary policy.
Any temporary overstimulation of the economy—perhaps stemming from misperception about the size of output gaps—is likely to have only small effects on inflation.
Preserving central bank independence is key to anchoring inflation expectations and, thus, inflation: Don’t take off the muzzle.
ざっくり要約すると「(これだけ大幅な緩和にもかかわらず)長期的に見るとインフレ期待は安定している。よって金融当局は(インフレの進行を恐れて)追加緩和はためらうことはない」、「中央銀行の独立性はインフレ期待を安定させるために必要だ」ってところかしら?
印象としては朝日新聞の文章の方がしっくりくるような気がする。記事の書き方ひとつでこんなに印象が違うのねえ。
余談
しかし、この章を書いたIMFの人は洒落っ気があるね。だって、章の冒頭にシャーロック・ホームズの『白銀号事件』の一節を引用しているんだもの(笑)。そう考えると、この章の章題――The Dog That Didn't Bark: Has Inflation Been Muzzled or Was It Just Sleeping?――も『白銀号事件』を踏まえてつけられたものか。こういう遊び心を許してくれるIMFは心が広いなあ。